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最判平19.2.6

地方自治法236条の消滅時効と信義則違反

<判事事項>(争点)

原爆の被害者に対する援護に関する法律に基づいて、健康管理手当の支給認定を受けた被爆者が、外国へ出国したことに伴って支給を打ち切られたため、未支給の健康管理手当の支払いを求める訴訟で、支給義務者(知事)が、地方自治法236条の消滅時効を主張することは信義則に反して許されない、とされた事例。

【参考】判事事項(原文)
 原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律等に基づき健康管理手当の支給認定を受けた被爆者が外国へ出国したことに伴いその支給を打ち切られたため未支給の健康管理手当の支払を求める訴訟において支給義務者が地方自治法236条所定の消滅時効を主張することが信義則に反し許されないとされた事例

<裁判要旨>(結論)

原爆の被害者に対する援護に関する法律に基づいて、健康管理手当の支給認定を受けた被爆者が、外国へ出国したことに伴って支給を打ち切られたため、未支給の健康管理手当の支払いを求める訴訟で、支給義務者が、地方自治法236条の消滅時効を主張することは、(1)被爆者が申請に基づいて健康管理手当の受給権を具体的な権利として取得した、(2)法令上の根拠がないのに、被爆者が外国へ引っ越した場合は健康管理手当の受給権がなくなると決めた違法な通達に基づいて、支給義務者が支給を打ち切った、(3)通達の内容が、被爆者が日本を出国した時点から適用されるので、受給権がなくなった後の権利行使が難しくなる人を対象としている、(4)被爆者については、受給権がなくなったことに対して裁判などをして、自分の権利を行使することが期待できたという事情がない場合は、信義則に反して許されない。

【参考】裁判要旨(原文)
 原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律又は原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律に基づき健康管理手当の支給認定を受けた被爆者が外国へ出国したことに伴いその支給を打ち切られたため未支給の健康管理手当の支払を求める訴訟において,支給義務者が地方自治法236条所定の消滅時効を主張することは,(1)上記被爆者がその申請に基づき上記健康管理手当の受給権を具体的な権利として取得したこと,(2)法令上の根拠がないのに,被爆者が国外に居住地を移した場合に健康管理手当の受給権につき失権の取扱いとなるものと定めた違法な通達に基づき,上記支給義務者が支給を打ち切ったこと,(3)上記通達の定めは我が国を出国した被爆者に出国の時点から適用されるものであり,失権取扱い後の権利行使が通常困難となる者を対象としていること,(4)上記被爆者については上記失権の取扱いに対し訴訟を提起するなどして自己の権利を行使することが合理的に期待できたなどの事情が見当たらないことなど判示の事情の下では,信義則に反し許されない。

<判決理由>(理由)

上告人(知事)が、消滅時効を主張して健康管理手当の支給義務を免れようとすることは、違法な通達を決めて受給権者の権利行使を難しくした国から事務の委任を受けて、自分もその通達に従って違法な事務処理をしていたのに、受給権者の権利の不行使を理由に支払義務を免れようとしているから。

【参考】判決理由(原文) 
 上告人が消滅時効を主張して未支給の本件健康管理手当の支給義務を免れようとすることは,違法な通達を定めて受給権者の権利行使を困難にしていた国から事務の委任を受け,又は事務を受託し,自らも上記通達に従い違法な事務処理をしていた普通地方公共団体ないしその機関自身が,受給権者によるその権利の不行使を理由として支払義務を免れようとするに等しいものといわざるを得ない。

<+α>

同規定(地方自治法236条2項)が、上記権利(普通地方公共団体に対する権利で、金銭の給付を目的とするもの)の消滅時効について、普通地方公共団体が時効を援用しなくても権利が消滅することにしたのは、性質上、法令に従って同じように処理することが、普通地方公共団体が事務を処理する上で都合がよく、住民を平等に取り扱うという理念の助けとなることから、時効援用の制度(民法145条)を適用する必要がないと判断されたと解釈できる。この趣旨を考慮すると、普通地方公共団体に対する債権に関する消滅時効の主張が信義則に反して許されない、とされる場合は、極めて限定されるというべき。

【参考】判決理由(原文) 
 同規定が上記権利の時効消滅につき当該普通地方公共団体による援用を要しないこととしたのは,上記権利については,その性質上,法令に従い適正かつ画一的にこれを処理することが,当該普通地方公共団体の事務処理上の便宜及び住民の平等的取扱いの理念(同法10条2項参照)に資することから,時効援用の制度(民法145条)を適用する必要がないと判断されたことによるものと解される。このような趣旨にかんがみると,普通地方公共団体に対する債権に関する消滅時効の主張が信義則に反し許されないとされる場合は,極めて限定されるものというべきである。

<過去問の出題履歴>

令和3年度、問題8、選択肢4

平成25年度、問題9、選択肢3

<裁判所ホームページ>(外部リンク)

「最判平19.2.6」の裁判例情報

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